ジュリアン・ムーア、演じることの尽きない魅力
ペドロ・アルモドバル監督の新作『The Room Next Door(隣の部屋)』でティルダ・スウィントンと共演する、ジュリアン・ムーア。自身の役どころや、スクリーン上における女性同士の関係性の重要性を語る。
PHOTOGRAPHY David Roemer
STYLED BY Sarah Gore Reeves
ジュリアン・ムーアは、世界で最もスタイリッシュな女性の一人だ。シャネルのランウェイを歩き、トム・フォードとはスピードダイヤルで繋がっていて、ボッテガ・ヴェネタやディオールといったブランドのショーでは常に最前列に座っている。だが、そんなクチュールレベルのファッションアクセスを持つムーアでさえ、私たちと同じような悩みを抱えていると知れば、少しは安心できるかもしれない――「快適でありながらおしゃれな靴が見つからない」問題だ。
「プレス対応やレッドカーペットでは、履き心地の悪い靴でも履くけど、ニューヨークでは絶対に無理」と彼女は言う。「本当にイヤなのよ!『なんでいい靴が見つからないの?』ってイライラして、結局はダサいスニーカーか、履き飽きた同じブーツばっかり履いちゃうの。」
とはいえ、ムーアのような女性――アカデミー賞受賞歴を持ち、約40年にわたり映画業界で活躍してきたベテラン――を「服のセンス」だけで語るのはどこか失礼にも思える。でも、私たちが私服や日常のスタイルについて話している最中、Zoomで彼女が現れて最初に発したのは、私の赤毛への明るいコメントだった。その瞬間に一気に緊張がほぐれた。
ムーアは、地に足がついていて、思慮深く、そしてとてもリアルな人。そう、靴へのこだわりひとつとっても、彼女は間違いなく「女の子の味方」。女性同士の友情をとても大切にしているタイプなのだと感じさせてくれる。
「友達って、“あなたを見届けてくれる人”。それも、“見届けようと選んでくれる人”なんです」とムーアは語る。「恋愛関係は、ある意味で別の動機によって成り立っていますよね。誰かに強く惹かれて、家族を築きたいと思ったりする。でも女性同士の友情は、それとは違う種類の絆なんです。ただ『この人好きだな、一緒にこの人生を歩んでいこう』と決めてくれるような存在。お互いの人生経験を映し合うような関係です。」
「私はこれまでずっと、そうした女性の友人たちに恵まれてきました。人生のどの段階においても、彼女たちは信じられないほど大きな影響を与えてくれました。女性同士で分かち合える仲間意識や喜び、自分の軸を取り戻す感覚──『自分ひとりじゃないんだ』と思えること。誰かが似たような経験をしていて、そばで支えてくれて、気にかけてくれて、『あなたはおかしくなんかない』って言ってくれる。その存在が、どれだけ救いになるか。」
「女性同士の友情を描いた映画って、本当に稀なんです。」
そして話題は、ムーアの最新作『The Room Next Door(隣の部屋)』へ。この作品は、シグリッド・ヌーネズの小説『What Are You Going Through』を原作としたもので、スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督による初の英語長編映画。ムーアは、同じく高い演技力とファッションセンスで知られるティルダ・スウィントンと共演する。
物語の表面は重い。スウィントン演じるマーサは、末期がんの診断を受け、治療を続けるよりも安楽死を選ぶ決意をする女性。ムーアは、マーサが最期の日々を共に過ごしてほしいと頼んだ親友・イングリッドを演じる。しかし、この映画の本質にあるのは、ムーア自身の人生においても非常に重要な意味を持ってきた「女性同士の友情」だ。
「素晴らしいのは、女性同士の友情を描いた映画が本当に少ないということ。映画の中で女性が登場しても、それは母娘だったり、姉妹だったり、恋人同士だったり、ライバルだったりする。でも、“ただの友情”って、ほとんど描かれないんです」とムーアは語る。
「でも実際には、私たちの多くにとって、それは家族以外で最も大切な関係のひとつ。そういう関係がドラマとして描かれることは、とても感動的だと思うし、私自身も、ティルダも、演じながら深く心を動かされました。女性として、この絆をスクリーン上で再現できたことは、本当に深い意味があったと思います。」
映画『The Room Next Door』でジュリアン・ムーアとティルダ・スウィントンが共演する姿は、バーレスク文化や“スタン”系ネットスラングで言うところの「マザーオフ」そのものだ。(オンラインに詳しくない人向けに言えば、これは“二人のレジェンド女性が、それぞれ最高の演技を同時に見せる奇跡の瞬間”を意味する。)本作のほとんどは、二人芝居の構成になっており、ムーアとスウィントンはアルモドバル監督らしい格式あるセリフを、あたかも自然に話しているかのように巧みに演じている。
特にムーア演じるイングリッドは、死への戸惑いや悲しみを、時に残酷なまでにリアルに体現している。マーサのネガティブな発言を途中で遮ったり、最後の瞬間まで無理にでも明るく振る舞おうとしたりする。そうした“生活感のある癖”や、人間らしさの断片が、この役を演じるうえでムーアにとっては非常に重要だったという。
「彼女の“楽観主義”がすごく好きだったの。“大丈夫、大丈夫。これ試してみよう。きっとうまくいくから”って自分に言い聞かせる感じ。私たちもみんなそうでしょ?誰かが足を骨折したら、“心配しないで、6週間で治るって。その間、一緒にテレビ観ようよ。楽しくなるよ”って言うような」とムーアは語る。
「でも彼女の“ぶっきらぼうさ”とか、“イライラする感じ”も好きだった。だって彼女、そもそもそこにいたくないんですよ!死を目の当たりにするのは辛いことだし、病気や痛み、違和感に直面するのって本当に大変なこと。それをペドロがしっかり描こうとしているのが面白いと思いました。」
もちろん、スウィントンという最高の相手役がいてこそ、この作品はさらに輝いている。二人はこれまで業界イベントで軽く顔を合わせたことはあったものの、本格的に共演するのは今回が初めて。ムーアはずっとスウィントンの演技をリスペクトしており、いつか一緒に作品を作れたら…と願っていたそうだ。実際の共演は、想像以上だった。
「彼女は本当にオープンで、心から関心を持ってくれる人。とても探求心が強く、真剣に演じる。しかもユーモアのセンスが抜群。彼女は本当に、素晴らしい俳優よ」とムーアは称賛する。
2023年のSAG俳優ストライキが終了するとすぐに、ムーアとスウィントンはマドリードへ渡り、撮影の準備に入った。アルモドバル監督の作品は、徹底的なリハーサルを重ねることで知られており、それは言葉の精度、キャラクター同士の関係性の明確化、そして作品全体の“見た目と空気感”を完璧に仕上げるためなのだ。
「人々が自分自身を重ねられる場所はいつも存在します。それが映画館であれ、配信サービスであれ、テレビであれ。」
「最初の顔合わせはペドロのアパートでした。脚本を1シーンずつ丁寧に読み合わせて、読んで、また読んで、さらにもう一度読む――そんなふうにして進めていったんです」とムーアは振り返る。だが、それ以上に重要だったのは、撮影前の数ヶ月間を通じて、スウィントンとの間に“パートナーとしての関係性”を築けたこと。感情的にも非常に重く、そして親密で繊細なシーンを、互いに正直でオープンな状態で演じられる環境が整ったのだ。
「彼女との共演で、ひとりだと感じたことは一度もなかったわ」とムーアはスウィントンとの関係性について語っている。
そしてもちろん、ペドロ・アルモドバルとの仕事は“夢のよう”だった。彼の過去作品はすべてスペイン語だったため、自分に声がかかるとは思っていなかったという。「ある朝、メールを開いたら、ペドロから“ティルダと一緒に英語で映画を撮るつもりなんだけど、参加してもらえませんか?”というメッセージが届いていたんです。本当にびっくりしました。まさか自分にこんな機会が巡ってくるなんて。」
ムーアのIMDbページを見れば、彼女がいかに“現代最高の監督たち”と仕事をしてきたかが一目でわかる。スティーヴン・スピルバーグ、ポール・トーマス・アンダーソン、リドリー・スコット、コーエン兄弟、トッド・ヘインズ、ジュリー・テイモア──名だたる名匠たちがずらりと並ぶ。インディペンデント映画からハリウッドの大作、痛快なコメディから心を打つ悲劇、歴史ものから現代スリラーまで、幅広いジャンルで主演を務めてきた。
そしてムーアは、映画だけでなく、配信ドラマやテレビといったスクリーン以外の場にも積極的に出演している。ストリーミング時代がエンターテインメントに与える影響については日々議論が続いているが、ムーアが関心を持っているのはただ一つ――「素晴らしい物語に参加する機会があるかどうか」なのだ。
「映画か配信か映画館か、っていう話になると、私にとっての本質はいつも“物語がある”ということなの」とムーアは語る。「物語は常に存在していて、人々が自分自身を重ねられる場所も常にある。それが映画館でも、配信でも、テレビでも関係ない。私たちは物語を作り続けていて、物語はどんどん豊かに、複雑になってきていると思う。」
そして彼女は続ける。「今もなおこれを続けられていることが本当にうれしいの。今もたくさんの題材に出会えるし、自分にはまだたくさんの道が開かれているって感じられる。放課後に演劇部へ行くのが好きだった私が、まさかこれを一生の仕事にするとは思っていなかった。でも、実際そうなったし、それが驚くほどシンプルな流れだったの。私は本当に運が良かったと思っています。」
ムーアにとって演技とは、今も“遊び”のようなもの。いろんなことに挑戦し、さまざまな「役」を演じる機会を得られることが、この仕事の最大の喜びだという。役作りのために習得したスキルについて聞くと、彼女は次々と挙げてくれた:アメリカ手話、オペラの歌唱、フラワーアレンジメント、乗馬、ギター、パンやお菓子の焼き方…(「どれも覚えてないけどね」と笑いながらつけ加える)。
「先生が大好きなの。専門家が大好き。『これは私の持っているスキルなんだけど、あなたに教えてあげる』って言ってくれるその“寛大さ”に、私はすごく心を打たれるの。」
この“学ぶことへの愛”は、プライベートでも変わらない。最近、家族と一緒にプールで泳いでいたとき、娘のボーイフレンドがとても上手なスイマーだったことから、自分の泳ぎ方をチェックしてもらったという。
「私は泳ぎを覚えるのが遅くて、誰かに自分の泳ぎを見てもらうなんて本当に久しぶりだったの。でも、彼はすごく思いやりを持って、丁寧にアドバイスをくれた。“腕をもっとまっすぐ伸ばしたほうがいいよ、少し曲がってるから流されてるみたい”って。すごく参考になったの。」
ジュリアン・ムーアのキャリアと人生には、常に「学び」と「好奇心」、そして「物語を生きること」への愛が詰まっている。
「私、ファッションとはちょっと不思議な関係なんです。普段からファッションが大好き。でも、現実の生活の中で“見られる”ことはあまり好きじゃないんです。」
俳優という職業は、ジュリアン・ムーアのような確立された実力派であっても、いわば“ギグワーカー”。仕事から仕事へと移り、次にどんな機会がやってくるかは常に未知数だ。それは時に不安定で、恐ろしく感じることもある――実際、ムーアもそれを認めている――が、同時にスリルとワクワク感にも満ちている。
Vanity Fairのキャリア回顧インタビューでは、ムーアは演技の仕事を「キャンディ」にたとえてこう語っている。「食べている間は最高に楽しくて、食べ終わったら次のキャンディのことを考えてる」――それが彼女にとっての俳優業なのだ。
次に何を控えているのか、詳しい作品内容については明かしていないが、ムーアの“お皿”には、すでにとびきり美味しそうなキャンディが乗りつつあるという。
「すごくワクワクしてるの。だってオリジナルで、面白くて、本当に“人間らしい”物語なの。そして私が心から敬愛している人と一緒にやるんです。本当に驚きだったし、まさに“贈り物”のような作品だった」と語るこのプロジェクトは、来年初頭に撮影開始予定だ。
「脚本を読んだとき、“冗談でしょ?これを私にやらせたいの?”って思ったの。それくらい楽しくて…人生を肯定するような、素晴らしくて、ものすごく面白い作品なの。」
その前に待っているのが、『The Room Next Door』のプロモーション。すでに主演のムーアとスウィントンには、オスカーの呼び声もかかっている。
そしてジュリアン・ムーアがレッドカーペットに登場するたび、ファッションファンにとっては“ご褒美”のような瞬間になる。今年だけでも、ベネチアではボッテガ・ヴェネタのリキッドゴールドのドレス、Governors Awardsではヴァレンティノのシルバーのスパンコールドレス、ロンドンの『Mary & George』プレミアではスキアパレッリの構築的なルックを披露している。
こうした美しい衣装を身にまとうのは、彼女にとっても大きな喜びであり、光栄なことだという。でも、その注目の中心に立つ感覚は、どれだけキャリアを重ねても「決して当たり前にはならない」とムーアは語る。
「私、ファッションとはちょっと面白い関係なのよ」とムーアは言う。「日常ではファッションがすごく好きなんだけど、でも同時に現実の生活で“注目される”のは好きじゃないの。ニューヨークでは特に、目立ちたくないし、普通の人みたいに見られたい。」
「ファッションを“鎧”だとは感じないの。むしろ逆。ファッションで注目を集めてしまうと、自分が“さらけ出されている”気がするのよ。守られているというより、無防備な感じ。だから現実では、目立つような服を着るのはあまり好きじゃないの。」
それこそが、ムーアが日常へと戻る方法のひとつでもある。ハイヒールを脱いで、履き慣れた快適な靴に履き替えること。彼女はオフの時間に、自分をリセットし、地に足をつけ直すのだ。たとえば、たっぷり眠ったり、読書したり、散歩に出たり、夫や子どもたち、愛犬と過ごしたり――そしてもちろん、女友達とも会ったりする。
「そういう時間こそが、私の“力”と“インスピレーション”の源なの」とムーアは語る。「女友達と一緒に散歩しながら、“ねえ、大丈夫、あなたはおかしくなんかないよ”って言い合えること。それが一番大切なのよ。」
HAIR: Orlando Pita HOME AGENCY
MAKEUP: Romy Soleimani MANICURE: Pattie Yankee
SET DESIGN: Jacob Burstein MHS ARTISTS
CREATIVE CONSULTANT: Mariana Suplicy
PRODUCED BY: Dana Bosland
DIGITAL TECH: Ernesto Urdaneta
LIGHTING TECHS: Harry Kong and Mike Sikora
STYLING ASSISTANTS: Daniel Zepeda, Ashlyn Brooks, and Izzy Lenoff